覚(さとり)
文中●には
という字が入ります。
飛騨美濃の深山に●(やまこ)あり。
山人呼で覚と名づく。色黒く毛長くして、
よく人の言(こと)をなし、よく人の意(こころ)を察す。
あへて人の害をなさず。
人これを殺さんとすれば、先その意(こころ)をさとりてにげ去と云
中部地方を中心に日本各地に伝わる猿のような妖怪。
真っ黒く長い毛に覆われた姿で、山に棲み、
人の心を読み取る能力を有する。
柳田国男は、山人の一種と見ていたようで、
他の伝承の山人との比較など、実に興味深いものがある。
『和漢三才図会』には、●(ヤマコ)という名前の妖怪の記述がある。
猿に似た獣で、黒くて長い毛に覆われ人の心を読むと、紹介されている。
覚にそっくりである。
覚=●であると考えて差し支えないと思う。
『和漢三才図会』は、もともと中国明代の『本草綱目』を引用しており、
実は●も『本草綱目』に記述がある中国の妖怪である。
この、中国の妖怪●が日本に輸入されて覚となったのであろう。
ただ、中国の●は、人心を読む性格は与えられていない。
おそらく、●は、「かく」と発音するところから、「覚」の字で記されるようになり
覚の字義から、「さとる」性格を与えられたのではないか。