●呪い 


呪いというものは、怖い。
「あなたを呪いましたよ」
なんて、馬鹿正直に宣言する人なんていないのだから、
知らないうちに呪われているかもしれないのだ。
呪いの動機なんてものはいっぱいころがっているはずだ。
あなたにとっては些細なことでも、それを根に持ち、あなたを
妬ましく思う人が存在するのでは?
ちょっと疑ってしまうと、どいつもこいつも呪いをかけていそうに
思えてしまう。

また、逆に考えるならば、あなた自身も呪いをかける可能性のある
存在として周囲には認識されているのだ。
あなたに呪いをかけられていると勝手に思いこみ、自分の不幸は
あなたの呪いのせいなんだ、なんて思ってるのがいるかもしれない。
実際、あなたは何もしていないのに、呪いをかけた悪者として
恨まれる。
・・・ここにも新たな呪いが発生する。

大昔から人々は、こうした呪いに強い関心を寄せていたようで、
様々な呪いの方法が現在に伝わっている。
呪いの方法も、その時代々々で流行り廃りがあったようだ。
それを、簡単にまとめると、次のようになる。
1.言霊信仰に起因する呪い
奈良時代以前
2.呪禁道による呪い
奈良時代
3.陰陽道による呪い
奈良時代〜平安時代
4.密教系の呪い
平安時代〜

1〜4の順に、記録に残っている呪いを紹介する。

但し、人を呪はば穴二つ。決して実行しようなど考えぬように。。。




1.言霊信仰に起因する呪い

最もシンプルなもので、
「おまえを呪ってやる!」
と言葉にしただけで、呪いをかけたことになるというもの。
実に簡単で、道具もなにも必要ない。
神話のイザナギとイザナミが黄泉平坂(よもつひらさか)で
お互いにこの方法で呪いをかけあっている。
あまりにシンプルすぎて、現在では廃れてしまったかというと
さにあらず。
受験生の前で「落ちる」「すべる」、結婚式で「切れる」「別れる」
なんて言わないようにしているでしょ?
「落ちる」だの「切れる」だの言ったとたん、呪いが発動して
その通りになってしまうので、言わないようにしているんですね。
だから、現代でもバリバリ現役の呪い方法なの。

how to 言霊信仰に起因する呪い
準備するものなど、特にありません。
呪いの言葉を発声すればいいのです。

「呪ってやる」でOKですが、
呪うの古代語「トコイ」と発声する方が
更に効果的かも
                      


言霊については、下記の書籍を
参照されたし。
言霊信仰の源流から、現代までの
歴史的展開の諸層を系統的に
追求している。

八幡書店
「言霊信仰」
豊田国夫/著
12,600円
ISBNコード 978-4-89350-275-9





2.呪禁道による呪い

呪禁道(じゅごんどう)とは、中国から入ってきた呪術。
呪禁道の専門家を呪禁師(じゅごんじ)と言う。
577年に百済王が呪禁師を朝廷に献上したという記録があるから
このころから呪禁道による呪いも流行りだしたのだろう。
呪禁道の呪い方法はいろいろ存在したらしいが、代表的なものは
動物を使いっぱにする蠱毒(こどく)と、人形による遠隔操作の
厭魅(えんみ)だ。

先の言霊信仰に起因する呪いにくらべると、いろいろ複雑な
手順での準備が必要になってくる。

呪禁道は、かなり強力な呪いであったらしく、政府は重い罰をもって
これを取り締まっていた。
呪いの方法を学んだだけで縛り首になったらしい。
ほんとうに、効果があったんだろうか?

how to 蠱毒(こどく)−1
動物の死霊を操作して、相手に呪いをかける方法。
他の呪法と混ざり、いろいろなバリエーションがあるが、
オリジナルはこうである。

準備するもの)
 ・毒を持つ動物、霊力の強そうな動物
  (例 蛇・犬・狐・トカゲ・カエル・ムカデ・蜘蛛)

 ・動物を閉じこめる容器。大きさは、余裕を持たせて。

手順)
 1)動物を一つの容器に入れる
 2)エサを与えず共食いさせる
 3)最後まで生き残ったものを取り出して殺す
 4)死骸を干して焼き、呪うべき相手に飲ませる 
                             


蠱毒については、下記書籍をお薦めします。
中国の蠱毒について述べられたものですが、
よりオリジナルに近い形であると思います。

風響社
「中国の〈憑きもの〉 華南地方の蠱毒と呪術的伝承」
川野明正/著
5,250円
ISBNコード 978-4-89489-301-6

how to 蠱毒(こどく)−2
蠱毒のバリエーションの一つとして、
猫蠱(猫鬼)というのがあるので紹介する。

準備するもの)
 ・猫。種類は問わない。

 ・子供の死体。1歳くらいが望ましい。

手順)
 1)猫を一匹飼い慣らす
 2)1歳くらいで早死にした子供の死骸を手に入れる
 3)夜半に猫を抱き死体の周りで禹歩(うほ)
 4)猫の首と死体の首を切り落とす
 5)死体の首を猫の腹の中に入れる
 
ここまで行えば、たちまち人面猫の猫蠱(猫鬼)となり、
術者の意のままに働くという。

how to 厭魅(えんみ)
現在に残る「ワラ人形」の原型。
蠱毒と同様、様々なバリエーションが現在まで
伝承されている。あまりにバリエーションが多く、
どれがオリジナルか定かではない
古いと思われる方法を紹介する。

準備するもの)
 ・木板。薄いもので可。
 
 ・弓矢

手順)
 1)木の板を人形(ひとがた)に削る
 2)削りながら、これは呪う相手だと念ずる
 3)人形ができたら、急所(頭、胸など)に矢を射かける

ただ、矢を射かける代わりに、針を刺すとか、
金槌で叩くとかの方法もあるようだ。
人形の代わりに、相手の髪や持ち物、写真などを
使うというバリエーションもある。




3.陰陽道による呪い

大変流行していた呪禁道であだが、奈良時代末期になぜか廃れてしまう。
そして、呪禁道にとって代わったものが陰陽道である。
陰陽道は、呪禁道と同じ頃、中国から伝来したもので、呪禁道の方法を
吸収しつつ発展した。
だから、呪いの方法も、蠱毒や厭魅を応用したものが多い。

ただ、大きく異なる点は、術者は式神という鬼神を使役して、
相手を取り殺すという方法をとることだ。

では、式神を使役しての具体的呪い方は?
残念ながらこれこそオリジナルだ、といえるような方法は残っていない。
式神を用いる呪法は、陰陽道の中でも秘中の秘とされていたため、
もともと方法を知る人が少なかったのだ。

今に伝わる式神使役法は、
 1)木や紙の人形に式神を乗り移させる法
 2)動物に式神を乗り移させる法
があるが、
1)は「厭魅」のバリエーションであり、2)は蠱毒のバリエーションである。
どちらも呪禁道の影響で編み出された方法で、陰陽道オリジナルではない。

まぁ、なにしろ、今まで紹介した呪いと違い、陰陽道の呪いは誰にでも
できるものではないということなのだ。
陰陽師という、陰陽道の奥義を学んだ専門家がいて、はじめて呪いを
かけることが成立するわけ。
呪いが一般人の手から取り上げられ、エキスパートが独占する時代に
突入したということ。

how to 陰陽道による呪い
前述したとおり、この呪いはスペシャリストのみが
行えるもので、一般庶民には難しい。
手っ取り早い方法は、陰陽師に報酬を払い、
呪ってもらうのがいいと思う。

それでも、どうしても自分の手でというなら、
式神作りからはじめないといけない。
式神造りを詳しく学びたいという方は、
大分館書店「加持祈祷秘密大全」(小野清秀著)
−−2100円だったかな?
を、参考にして貰いたい。
十二神将などの呪札の書き方や、
様々な実践呪術が紹介されている。

※ 残念ながら「加持祈祷秘密大全」は、
入手不可となりました(2008年トーハン調べ)
古本屋で運良く見つけたら、即ゲットしよう




4.密教系の呪い

平安時代に陰陽道とともに呪いを担当していたのが密教だ。
最澄、空海によって中国からもたらされた密教は、呪禁道や陰陽道を
取り入れ修験道というバリエーションを生み出していく。

この呪いの特徴は、陰陽道よりもさらに高度な力量を持った専門家が
必要であるということだ。
密教系の呪いは、その奥義を学んだだけではだめで、修行を積み
心身共に鍛え抜かれた術者を要する。
陰陽道以上に、一般人には手出しできない呪いというわけだ。

密教系の呪いは調伏法と呼ばれるが、これは明王に祈ってお願いをし、
呪うべき相手を明王にやつけてもらうというものである。
不動明王、大威徳明王、降三世明王、軍茶利明王、金剛夜叉明王の
五大明王が使われた。
五大明王の中からひとつ選んで、その神像の前に三角形の壇(火輪壇)
を設けて真言を唱えながら、呪いを祈念するのである。

こうした呪いの方法も、いろいろとバリエーションが開発されていき、
しまいには五壇法といって、五大明王を総動員させるなんていう
大がかりなものになっていった。


さらに、この密教の呪いをもとに、それまでの呪いを吸収して、
修験道の呪いが完成する。
山岳にて修行した修験者が、五大明王などを使って呪うわけだが、
呪い方が面白い。
最初は、明王像の前でお経など唱えながら、
「だれそれに 呪いがかかれ〜!」
と、念じているのだが、効果がないと、なんと明王をいぢめるのだ。
明王像を叩いたり、蹴ったり・・・さんざんいぢめて、
「言うことを聞いいて呪いを成就しないともっといぢめるぞぉ〜」
と、脅す。
明王は、いぢめられたくないものだから、しぶしぶ呪う相手を
やつけに行く。

簡単な方法だね。
これなら、わざわざ修験者を雇わなくても、自分でもできそうだ。
ということで、近世にはいると、この呪いの方法のバリエーションが
たくさん生まれ、呪いが庶民の手に戻ったのである。

how to 密教の呪い
これも、前述したとおり、
スペシャリストによってのみ行える呪い。
密教系の寺のお坊さんに依頼して
呪ってもらう他はない。

ただ、過去において、呪い調伏を引き受けていた
寺でも、現在は表だってやっていないから注意。
やっぱり、呪いをやっていたとなると、
お寺のイメージが悪くなるから、お坊さんたち、
たいていは、呪いなんてこの寺ではやってないし
呪いの方法も知らない って言うね。

多額の報酬を払うと、引き受けてくれることがある。
      

○スペシャリストでなくても密教呪文は使えると
一般大衆向けに書かれた、How to本

実業之日本社
「密教福寿開運法 願いをかなえる開運呪文パワー」
三郎丸光明/著
1,365円
ISBNコード 978-4-408-32111-0



○中国の呪符について、調査・研究した書

ビイング・ネット・プレス
「道教的密教的辟邪呪物の調査・研究」
大形徹/編 坂出祥伸/編 頼富本宏/編
16,800円
ISBNコード 978-4-434-05498-3


how to 修験道の呪い
これも、修験者というスペシャリストが必要。
だけど、呪いの作法は伝わっているので
紹介しておきます。

準備するもの)
 ・明王像。掛け軸でも可。

 ・明王に関係のあるお経。

 ・明王をいぢめる道具。素手でも可。

手順)
 1)壇(祭壇)を作り明王像を置く
 2)明王像の前で、お経を読み、呪いを念じる
 3)数日間して効果が現れなかったら、
   呪いを聞き届けたまえ と念じながら、明王の
   頭とか腹とかを叩く。
 4)まだ効果がなければ、更に激しくいぢめる。

この方法を試みて、明王のバチが当たっても
私は責任とりませんよ〜!
           


修験道の職能,修法,祈祷法が記された
希少な史料。

柏書房
「近世修験道文書 越後修験伝法十二巻」
宮家 準 解題 羽田 守快 解説
13,650円
ISBNコード 978-4-7601-2807-5



※ 近世以降、庶民の手に戻った呪いについては、
  別項にて解説するつもり。